ノータイトル

彼女は自分の足のツクリが好きではないと言った。

その指の形も、普通、よりも少し小さめなその大きさも、好きではない、と。
一番好きではないのは爪だとも言っていた。
その爪は僕が彼女の家に訪れる度にカチリ、カチリと変わっていて
彼女がどんな服を着ていたかはよく思い出せなくてもその爪の鮮やかな色だけはどんな時もよく覚えていた。
赤、黒、深い青、緑、ラメ入りの赤、シルバー、ピンク、白。
いつでも前と同じ色、という日はなくて
でも僕はぼんやりとそんなことを考えるくらいで
彼女が僕が家に来るから前もって、出来れば不自然でも塗り直して定着させられるように前々日に塗りなおしていることだとか
あまり淡く可愛らし色を好まず、どちらかといえば毒々しい類の色を選ぶのは
彼女が言うところのその爪の形の醜さから、色の毒々しさに目を向けさせる為だなんて
少しも考えたことはなかった。

でも僕は
そんなことは知らなくても彼女が好きではないその足に
口づけできるほどにはその足も好きだったし
ペディキュアの色で醜い部分を隠そうとするところも好きだった。
そこまでして、僕に少しでも嫌われないようにしているところがとても愛しかった。